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福岡地方裁判所 昭和47年(行ウ)25号 判決 1973年4月13日

原告 日田商事株式会社

右代表者代表取締役 吉川秀雄

右訴訟代理人弁護士 安田幹太

同 安田弘

被告 福岡法務局西新出張所登記官 片峯文吉

右指定代理人 小沢義彦

同 松江国雄

主文

一  原告が被告に対し福岡法務局西新出張所昭和四七年三月二四日受付第一二、七六三号建物表示登記申請に基づく表示登記を求める旨の訴を却下する。

二  前記申請に対し被告が昭和四七年四月二八日附をもってなした却下決定を取消す旨の原告の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  請求の趣旨

1  被告が原告の福岡法務局西新出張所昭和四七年三月二四日受付第一二、七六三号建物表示登記申請に対してなした昭和四七年四月二八日附の却下決定を取消す。

2  被告は右建物表示登記申請に基づく表示登記をせよ。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二  請求の趣旨に対する被告の答弁

主文同旨の判決。

三  請求原因

1  原告は昭和四七年三月一七日訴外西島生二から別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という)を買受けた。

2  ところが本件建物はいまだ未登記であったため、原告において保存登記手続をすることとし、昭和四七年三月二四日、本件建物の表示登記並びに所有権取得登記(以下保存登記という)の申請を福岡法務局西新出張所になし、右申請は同日同出張所受付第一二、七六三号として受理された。

3  ところがその後、訴外国際航業株式会社より福岡地方裁判所に本件建物が訴外西島生二の所有に属するものとして仮差押命令の申請がなされ、同裁判所は昭和四七年四月四日本件建物に対する仮差押の決定をなし、同月六日福岡法務局西新出張所に本件建物の表示登記並びに仮差押登記の嘱託(以下登記嘱託という)をなし、右登記嘱託は同出張所昭和四七年四月六日受付一五、四七一号として受理された。

4  しかるに、福岡法務局西新出張所の登記官は右登記嘱託の受付が原告のなした保存登記申請の受付より後順位であるにもかかわらず、右登記嘱託に基づき、訴外西島生二名義の保存登記をしたうえ、訴外国際航業株式会社を債権者とする福岡地方裁判所の仮差押の登記をなし、一方原告の右保存登記申請は昭和四七年四月二八日附をもって同出張所登記官である被告名義の決定で二重登記となる旨の理由で却下された。(以下本件処分という)

5  原告は昭和四七年五月一七日福岡法務局長に対して被告の右処分について審査請求をしたが同局長は同年七月七日右審査請求を却下する裁決をした。

6  しかし本件処分は次の理由により違法である。

(一)  不動産登記は同一不動産上に競合して互に矛盾する権利相互間の排他的あるいは優先の順位を決定するという民法上重大な効力を持つものである。それ故不動産登記法(以下単に法という)一五条は一個の不動産については一の登記用紙のみが備えられるべき旨定め、法四七条には登記官が登記申請書を受取ったときは受付帳に登記目的、申請人の氏名、受付年月日および受付番号を記載することを要する旨定め、法四八条には登記官は受付番号の順序に従って登記しなければならないと定めているのである。従って法四八条の規定は不動産登記における最も重要な基本原則を定めるものとして他のあらゆる規定に先立って適用されるべきであり、登記官は受付けた登記申請が形式的に有効である以上は法四八条により受付帳に従って登記しなければならない。

(二)  そうだとすると、一個の本件建物についての建物表示登記は法四八条により先に受付けられた原告の保存登記申請によってなされるべきで、後に受付けられた裁判所の登記嘱託は法一五条の定むるところにより「登記すべきものに非ず」として登記官は法四九条二号により却下すべきである。

しかるに本件においては登記官が誤って後に受付けた裁判所の登記嘱託を登記し、先に受付けた原告の保存登記申請を却下したのであってそれは明らかに法四八条、四九条二号に反し違法である。

四  被告の本案前の申立

原告の請求の趣旨第二項の訴は行政庁に対し行政処分をなすべきことを命ずる裁判を求めるものに外ならず、いわゆる義務づけ訴訟であって三権分立のたてまえからしてかかる訴は許されず不適法であるから却下されるべきである。

五  請求原因に対する被告の認否並びにその主張

1  請求原因第一項の事実は知らない。

2  同第二ないし第五の事実は認める。

3  同第六項は争う。

4  法四八条は「登記官ハ受付番号ノ順序ニ従ヒテ登記ヲ為スコトヲ要ス」と規定し、登記官が登記をなす順序を定めている。しかして本条の趣旨は単に登記官が登記簿へ記入するときの順序を定めたばかりでなく、登記の申請(又は嘱託、以下同じ)事件の処理の順序をも定めたものと解すべきである。しかしながら右の規定にもかかわらず、後順位受付にかかる事件が先順位受付にかかる事件より先に登記されてしまった場合の当該登記の効力の問題や先順位受付にかかる事件の処理の問題はもはや右法四八条の問題ではない。

すなわち、登記官が登記申請について審査する場合の判断の基準時、いいかえれば当該登記の申請が適法であるとして受理するかあるいは不適法として却下するかを決定する時点は登記申請書の受付時を基準とすべきではなく、登記の実行時すなわち登記簿に記入する時を基準として審査すべきものと解すべきである。なんとなれば同一不動産に対し登記義務者を同一人とする相容れない二個以上の登記申請が時期を接してなされた場合、先順位受付にかかる登記申請は受付時の登記簿面からみれば適法であっても、後順位受付にかかる登記申請を処理したため、登記簿面が変化する結果、先順位受付にかかる申請は、結局不適法として却下せざるをえないことになるからである。

ところで本件においてはたとえその原因が如何なる理由によったにもせよ登記嘱託により本件建物につき訴外西島生二を所有者とする建物表示登記および所有権保存登記が、先順位受付にかかる原告の保存登記申請に先行してなされてしまったのであってその処理が法四八条に違反してなされたとしても、そのことだけで後順位受付にかかる右登記が無効となるわけではない。

しかして右登記は法四九条一号、二号のいずれにも該当しないから登記官の職権をもって抹消することも許されないのである(法一四九条)。

このように裁判所の登記嘱託によって訴外西島生二のため本件建物について表示登記がなされ、登記簿面が変化した以上、原告の申請にかかる本件建物の表示登記を許せば法一五条の定める一不動産一登記用紙の原則に抵触することとなるので、原告の登記申請を法四九条二号の規定により却下した本件処分は適法である。

六  被告の本案前の申立に対する原告の反論

行政庁が法令によって義務づけられた行政処分を拒否する場合これによって権利を害せられた者がその行政庁を相手方として行政訴訟によって救済を求められねばならないことは疑の余地がない。もっとも、かくのごとき行政訴訟において裁判所が行政庁に対し「かくかくの処分をせよ」と命ずることは三権分立に反する職権行為として許されないところであるが、しかしながらその場合「かくかくの処分をせよ」との給付判決の形式による裁判は被告行政庁は「かくかくの処分をせねばならない法律関係にある」と言う意味で確認判決として理解せらるべきである。従って本件請求の趣旨第二項も右同様の意味に理解せらるべきである。

理由

一(建物の表示登記を求める訴について)

行政訴訟において裁判所は行政処分の適否の判断をなし得るに止まり、行政庁に一定の行為(作為、不作為)をなすことを命じるがごときは司法権の範囲を逸脱するものであってこれを認める明文の規定の存しない限りこれをなし得ないと解すべきである。

ところで、本件の右訴は被告に対し原告申請にかかる本件建物の表示登記を命じる判決を求めるものであることは請求の趣旨第二項自体から明らかである。従って表示登記を求める原告の右訴はこの点において不適法として却下されるべきものである。

二(却下処分取消請求について)

1  請求原因第二ないし第五項の事実については当事者間に争いがない。

2  そこで本件処分が適法か否かについて検討する。

(一)  一個の不動産上には各種の法律関係が種々成立しうるものであり、不動産登記の目的が不動産の現況を正確に把握しまたは不動産上の法律関係を公示して不動産取引の安全を企るためであることはいうまでもなく、同一不動産について二以上の登記用紙を備え各種の法律関係を任意にいずれかの登記用紙に登記できるとするとその不動産上の法律関係は登記簿上混乱をきたし、不動産取引の安全を害するので、当該不動産の現況または法律関係を正確明瞭に公示するため法一五条は一個の不動産について一登記用紙のみを備えつけるべき旨を定め、右登記用紙に当該不動産上の法律関係を登記させることとしている。

(二)  そしてかようにして備え付けられた登記用紙に当該不動産上の権利について登記されたならば、その登記によって相矛盾する権利関係の排他性ないし権利相互間の優劣が決せられることも論をまたない。それ故法四八条は登記官は受付番号に従って登記しなければならない旨を定めている。これは単に登記官が登記簿へ記入するときの順序を定めたものばかりではなく、登記申請(又は嘱託)事件の処理の順序をも定めたものと解すべきである。

(三)  ところが同一不動産について相前後して相容れない二個以上の登記申請があり、登記官がその事件の処理の順序を誤まって後順位受付にかかる登記申請を先順位受付にかかる登記申請よりも先に処理をして登記簿に登記してしまった場合にはその時点において先順位受付にかかる登記申請は後順位受付にかかる登記申請に基づく登記が存在する以上登記すべからざるものとなって結局法四九条二号により不適法として却下されることはやむを得ないものと解するのが相当である。けだし、登記官は登記申請について形式的審査権しか有しないところ、登記簿上には法四八条に違反するものではあるが後順位受付にかかる登記申請に基づく登記が存在するので、右登記が抹消されていない限り、更に右登記申請に基づく登記をなすとすれば結局一個の不動産につき二の登記用紙を備えることとなり、二重登記となるので前述の一不動産一登記用紙の原則(法一五条)に反し、当該不動産に関する登記簿上の法律関係に混乱をきたし、不動産取引の安全を害し、不動産登記制度の趣旨に反する結果となるからである。

(四)  これを本件についてみるに、前記争いのない事実によれば、原告の保存登記申請の受付が昭和四七年三月二四日(受付番号一二、七六三号)、登記嘱託の受付が同年四月六日(受付番号一五、四七一号)であるから、登記官が右登記嘱託に基づく登記をし、原告の保存登記申請に基づく登記をしなかった点については法四八条に違反するものであるが、しかしながら、本件不動産については登記簿上右登記嘱託に基づく登記が存在するので、原告の保存登記申請は二重登記となり法四九条二号の「登記スヘキモノニ非サルトキ」の事由に該当するものであり、原告の本件保存登記申請を却下した本件処分は適法である。

三 よって原告の福岡法務局西新出張所昭和四七年三月二四日受付第一二、七六三号建物表示登記申請に基づく表示登記を求める訴は不適法であるから却下することとし、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松田冨士也 裁判官 塚田武司 仲宗根一郎)

<以下省略>

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